相続は二度発生する
通常、ひとつの家族において相続は二度発生します。一度目は、片方の親が亡くなるとき、二度目は、遺された親が亡くなるときです。一度目を一次相続、二度目を二次相続といいます。
一般的に、一次相続では男性が亡くなるケースが大半です。そして、遺された妻がその家で一人暮らしを始めます。その間、子供たちは自分たちの家を持ち家庭を築いています。つまり、「住まない実家」は二次相続での問題なのです。夫に先立たれた妻は、その後10年から20年近くその家で一人暮らしをすることになり、その妻が亡くなると実家が空き家になってしまうわけです。
相続税や空き家問題などの厄介な相続問題は、二次相続で起きるのです。一次相続では問題はほとんどないといえます。なぜなら、配偶者の税額軽減や小規模宅地の評価減という二つの税額軽減措置があるからです。
配偶者の税額軽減
配偶者に先立たれた人に対しては、課税価格(相続財産から債務や葬式費用などの控除額を差し引いた金額)が、次の1、2のどちらか多い金額まで配偶者には相続税がかかりません。
- 1億6千万円
- 法定相続分(通常は2分の1)相当額
ざっくりいいますと、受け取る遺産が1億6千万円と総財産の半分のいずれか大きい金額未満ならば、相続税はかからないということです。したがって、一次相続では遺産の全てあるいは大半を配偶者が相続するケースが多いのです。
小規模宅地の評価減
相続した家に住み続ける人に対しての優遇措置です。ご夫婦は同居していますから、旦那さんが亡くなっても奥さんはその家に住み続けます。すると、小規模宅地の評価減という制度が適用されるため自宅の評価額が8割安くなります。
つまり、相続税の計算をするときに本来ならば5千万円の不動産であっても、その2割の1千万円で計算してくれるのです。住み慣れた自宅を、相続税支払いのために出て行くことを防ぐ措置です。一次相続ではこうした制度が使えるので、よほどの資産家でなければ相続税の心配をする必要はありません。
ところが、二次相続になるとそうはいきません。子供が親の遺産を相続するのですから、配偶者の税額軽減は当然受けられませんし、同居していないと「小規模宅地の評価減」も利用できません。そのため、多額の相続税がかかってくることになるわけです。
同居・二世帯住宅は相続税で得をする
親と同居していた人は、相続税が安くなります。つまり、親が亡くなっても実家に住み続ける子供を優遇する制度があるのです。これは、すでに説明した小規模宅地の評価減です。先ほどは、一次相続で配偶者の死後、遺された人が家を相続するときに小規模宅地の評価減で評価額が8割安くなると説明しました。
これが、二次相続でも利用できるのです。つまり、親と同居していた子供は、その家に住み続ける限り、相続時に「小規模宅地の評価減」によって、不動産の評価額が8割安くなるわけです。でないと、高い相続税が払えなくなり、それまで住んでいた実家を売却しなければならないおそれがあるからです。
この制度は、それまで別居していた人も利用できます。細かい条件をいうと、相続開始前から過去3年間、本人または配偶者が所有する不動産に住んでいない相続人(持ち家を持っていない人)が、実家を相続し相続税の申告期限までに売却しなければいいのです。ですから、借家住まいの子供がいれば、持ち家が手に入れられるうえに相続税を安くできるという非常に有利な制度であるといえます。
しかし、実際にはこの制度を利用する人は少ないのが現状です。その理由は、相続の中心となっている50代以上の人には、ほとんど持ち家があるからです。だからこそ、相続のときに「実家を持ち家にすることができる」と喜ぶ人よりも「誰も住まない実家をどうしよう」と悩む人の方がはるかに多いわけです。
現在、二世帯住宅を建てることで、生前から親との同居を始めるという家族は増えています。二世帯住宅の場合、これまでは税務署に「同居」とは認められていませんでした。家の出入口が別であるならば、別の家と考えるべきだというわけです。これが、平成26年から、二世帯住宅でも「小規模宅地の評価減」が適用されて評価額が8割減となったのです。
賃貸物件も相続税が安くなる
土地や家屋を他人に貸していると、相続税は安くなります。貸している分に応じて相続税評価額が安くなるからです。土地と家屋では、土地の方が大きく評価減になります。それぞれに評価の方法をみていきましょう。
土地を貸している場合
土地を他人に貸していると、借りている人に借地権が生じます。これは、借りている人が勝手に追い出されないように、借り手の権利を守るためのものです。逆にいえば、貸し手にとっては自分の土地でありながら自由に処分できないことになります。
この「自由度が低い」「扱いにくい」という点を考えに入れて、他人に貸している土地は、自分で使っている土地に比べて評価額は低く抑えられています。では、どれだけ低くなるかというと、それは借地権割合で定められています。借地権割合が70%であれば評価額は30%に、借地権割合が40%ならば評価額は60%になるという仕組みです。
借地権割合は、国税庁が公開している路線価図に表記されています。路線価図には、道路ごとに路線価が千円単位の数字で記されています。その路線価の数字の次に表記されているA~Gのアルファベットが借地権割合です。割合は、A=90%、B=80%、C=70%、D=60%、E=50%、F=40%、G=30%となっています。ですから、100㎡の土地の場合、「350C」ならば3500万円×30%=1050万円という計算になります。
家屋を貸している場合
貸家の場合にも、借家人がいるために勝手に処分することはできませんから、やはり評価減となります。評価額の計算は、土地の場合と似ています。違うのは「借地権割合」の代わりに「借家権割合」を使うことです。そして、借家権割合は全国一律で30%という点です。3割しか評価減にならないのです。こうしてみると、土地よりも評価減の割合は少ないことがわかります。ただし、元々の評価額が土地よりも低いため、それほど大きな問題ではありません。
一戸建てを貸している場合、30%減がそのまま適用され、相続税評価額はその家屋の固定資産税評価額の70%になります。アパートの場合、全体のうちで実際に貸している分だけが評価減の対象となります。家族を住まわせていたり、空室があったりすると、その分は計算されません。たとえば、全体の80%の部屋が使用されている場合、固定資産税評価額×(1-30%×80%)で計算します。